この記事の結論
「なんとか残す方法はありませんか?」——抜歯が必要だと伝えたとき、患者さんからいちばん多く言われる言葉です。先に答えを書きます。
- 歯を失う原因は、多い順に歯周病(37.1%)、むし歯(29.2%)、歯が割れる「破折」(17.8%)です。全国の歯科医院で抜かれた歯を調べた調査の結果です[1]
- 3つとも、ある日突然ではありません。気づかないうちに進み、抜くしかなくなったところで見つかることが多いのです。分かれ道は、多くの場合「定期的に歯科に通っていたかどうか」です
- 残すことで時間を稼ぐ(延命する)ことはできても、元どおりに戻るわけではありません。歯周病で失った骨は、基本的に戻りません[2]
- 抜くか残すかは、その1本ではなく、口全体の将来で決めます。1本だけを見て決めると、あとでやり直しが増えるからです
- 私は「その場しのぎの治療」はしません
- おかしいと思ったら、すぐに受診してください。症状がなくても、定期的に見てもらってください
この記事では、歯を失う原因と、抜歯に至る3つの典型的な経過、よくある誤解、抜くか残すかを決めるときに歯科医師が考えていること、受診の目安を書きます。文中の[番号]は記事末尾の参考文献です。
歯を失う原因、1位は歯周病
8020推進財団が2018年に行った調査では、全国の歯科医院で1週間に抜かれた8,003本の歯について、抜いた理由を調べています[1]。
残りは、親知らずなどの埋まっている歯5.0%、矯正1.9%、その他7.6%などです[1]。
同じ調査では、ほかにも次のことが分かっています[1]。
- 歯周病と破折による抜歯は、35歳を過ぎると年齢とともに増える
- 抜いた歯でいちばん多かったのは、被せ物(冠)がついた歯(37.0%)
- 抜いた歯の6割以上は、神経を取った歯だった
経過1: 歯周病 — 1本抜くときには、まわりもがたが来ている
慢性の歯周病では、歯を支える骨が、1本だけでなくまわりの歯も一緒に、横一列に下がるように減っていくことが多いです。そのため、1本を抜かなければならない段階では、まわりの歯もかなりがたが来ています。そこから芋づる式に、抜く歯が増えていきます。
歯周病は、初めのうちは症状が出ないことがあります。そして、減ってしまった骨は、基本的に元に戻りません[2]。
治療して歯ぐきが落ち着いても、一度歯周病になった人は、再発しやすい状態が続きます。歯周病の国際分類を決めた専門家の会議は、治療して安定した人も再発のリスクが高いままなので、注意深く見守る必要があるとしています[3]。ヨーロッパ歯周病連盟の診療ガイドラインも、治療後の定期管理を3か月から最長12か月ごと、その人のリスクに合わせて行い、通い続けることを強く勧めています[4]。
研究でも、治療後に定期的に通っていた人は、通い方が不規則な人より、歯を失うリスクが低いことが分かっています[5]。治療後に管理を続けた奥歯は、平均14.7年の追跡で82%が残っていました[6]。
定期的に受診していれば、芋づる式になる前に止められたはず、と思う例は少なくありません。
なお、同じ調査では、65歳以上で糖尿病がある人は、抜歯の原因の55.0%が歯周病でした[1]。喫煙や糖尿病は、奥歯を失うリスク要因としても挙げられています[6]。
毎日の歯と歯の間のケアは、歯磨きが続かないのは、意志の問題じゃない。歯科医師が考える「サボっても守れる」仕組みに書きました。
経過2: むし歯 — 口の中の崩壊か、被せ物の下のむし歯
むし歯で歯を抜かなければならないのは、多くの場合、次のどちらかです。
- 口の中全体が崩れてしまっている
- 詰め物や被せ物の下で、むし歯が進んでいる(二次むし歯)
調査で抜いた歯にいちばん多かったのが、被せ物のついた歯でした(37.0%)[1]。詰め物をやり直す理由として最も多いのも、二次むし歯だと報告されています[7]。
一度治療した歯は、それで終わりではありません。被せ物の下は自分では見えないので、検診で見てもらう必要があります。定期的に来ていれば、抜くところまで進む前に見つけられたはず、という歯は多いのです。
詰め物や被せ物が取れたときの対処は、詰め物・被せ物が取れたら、捨てずに持って歯科へ。歯科医師が本音で書く、受診までにやることと「付け直し・作り直し」の分かれ目にまとめました。
経過3: 破折 — かむ力と、神経を取った歯
歯が割れて抜くことになるのは、かむ力の強さと、神経を取った歯の問題が大きいと考えています。
調査では、神経を取った歯では抜歯の原因の26.5%が破折でした。神経のある歯では2.8%です[1]。歯ぎしりや神経がないことは、奥歯を失うリスク要因としても挙げられています[6]。
割れるのを防ぐために、私が理想だと考えているのは次のような対策です。
- 神経を取った歯の土台に、ファイバー(グラスファイバーの芯)を使う。日本補綴歯科学会のガイドラインは、歯の根が割れるのを防ぐとしてファイバーの土台を勧めています[8]。一方で、その後の研究をまとめた分析では、金属の土台と差がなかったという結果も出ています[9]。詳しくは保険と自費、歯科医師はどう考えているかに書きました
- 寝ている間のマウスピースで、歯を守る
- ボトックスを定期的に打って、かむ力を弱める
マウスピースとボトックスの役割と注意点は、「歯ぎしりはしていない」と思っている人へ。歯科医師が書く、食いしばりのサインとマウスピース・ボトックスの本当の役割にまとめました。
よくある誤解
1. 抜かなければ、なんとかなる
抜かずにいれば何とかなる、と思っている方は多いと感じます。
でも、残すことで時間を稼ぐ(延命する)ことはできても、悪くなった歯が元どおりに治るわけではありません。歯周病で減った骨は、基本的に戻りません[2]。
そして、だめになった歯では、しっかりかめません。かめない歯の分の負担は、必ず別の歯が肩代わりしています。隣の歯も、かみ合う相手の歯(対合歯)もです。そうして、芋づる式にほかの歯もだめになっていくと私は考えています。これは研究で確かめられたことではなく、私の持論です。
2. ぼろぼろでも、1本でも多く残すのが正解
「80歳で20本以上の歯を保とう」という8020運動は、歯を残す人を大きく増やしてきました。2024年の国の調査では、8020の達成者は61.5%です[10]。
一方で、診療では、ぼろぼろの歯を残していることに誇りを持っている方にも出会います。本数を目標にした運動が、「どんな状態の歯でも抜かないのが正解」と受け取られている面があるのではないか、と私は感じています。
庭木の手入れで、全体を生かすために枝を間引くことがあるように、口全体を守るために1本を抜く判断が必要なこともあります。
抜くか残すか、歯科医師が考えていること
私は、1本の歯ではなく、口全体(一口腔単位)で治療計画を立てます。
1本の歯だけを見て治療を決めると、あとからやることがどんどん増えて、結局すべてやり直しが必要になると考えているからです。たとえば、残した歯がだめになるたびに、入れ歯を作り直すことになります。
だから、何年も先の口の中の状態を予測して、計画を立てることが大事だと考えています。ヨーロッパ歯周病連盟の診療ガイドラインも、重い歯周病の治療では、計画を立てる前に口全体をしっかり診断・評価することが極めて重要だとしています[11]。
私は、その場しのぎの治療は絶対にしません。そして読む方にお勧めしたいのは、定期的に歯科医院を受診して、怪しいところを管理してもらうことです。すぐに治療するか、様子を見るかも含めて判断してもらえます。その方が、結果的に治療費も治療回数も減らせると考えています。
「なんとか残せませんか?」への私の答え
残せる歯は残します。ただ、その歯を残すことで口全体の計画が崩れるなら、抜いた方がいいこともあります。
管理を続ければ、歯周病でダメージを受けた歯でも長く残せることは分かっています[6]。だからこそ、残すかどうかは、その後の管理まで含めて決めます。
口全体で考えた計画かどうかは、遠慮なく担当の歯科医師に聞いてかまいません。聞き方は、保険と自費、歯科医師はどう考えているか。「自費を勧められた」ときに聞いておきたいことにも書きました。
受診の目安
おかしいと思ったら、すぐに受診してください。たとえば、次のようなときです。
- 歯ぐきから血が出る、腫れる
- 歯がぐらぐらする、浮いたような感じがする
- かむと痛い
- 詰め物や被せ物が取れた、歯が欠けた
症状がなくても、定期的に見てもらってください。歯周病の治療を受けた人は、3か月から最長12か月ごとの管理が勧められています[4]。1年以上歯医者に行っていない人は、まず1度受診してください。磨けない日の最低ラインは、歯磨きしないで寝たら、すぐむし歯になる? 歯科医師が答える、1日何回・いつ磨くかの「最低ライン」に書きました。
歯医者の選び方は、歯医者選びに「正解」はない。でも「スタンダード」はある。歯科医師が内側から書く、医院を見る3つの物差しにまとめています。
よくある質問
Q. 抜くと言われた歯を、なんとか残す方法はありませんか?
A. 歯の状態によっては、残せることもあります。ただ、残すことで時間は稼げても、元どおりに戻るわけではありません。その歯だけでなく、口全体でこの先どうするかを、担当の歯科医師と相談してください。説明が足りないと感じたら、ほかの歯科医師の意見を聞いてもかまいません。
Q. 歯を失う原因で、いちばん多いのは何ですか?
A. 歯周病です。全国の調査では、歯周病37.1%、むし歯29.2%、破折17.8%の順でした[1]。
Q. 神経を取った歯は、割れやすいのですか?
A. 調査では、抜歯の原因に占める破折の割合は、神経を取った歯で26.5%、神経のある歯で2.8%でした[1]。神経を取った歯は、かむ力から守る工夫が大切です。
Q. 歯周病でぐらぐらしてきました。元に戻りますか?
A. 減ってしまった骨は、基本的に元に戻りません[2]。ただ、治療で進行を抑え、定期的な管理を続ければ、長く残せることも分かっています[4][6]。早めに受診してください。
Q. 定期検診は、どのくらいの間隔で行けばいいですか?
A. 人によって違います。歯周病の治療後は、3か月から最長12か月ごとに、その人のリスクに合わせて決めることが勧められています[4]。通っている歯科医院で、自分の間隔を決めてもらってください。
この記事を書いた人
現役の歯科医師です。歯科医師として5年以上、口腔外科を中心に診療しています。抜歯を伝えると、「なんとか残せませんか」と言われることがよくあります。その場しのぎではなく、口全体で長く歯を守る計画を、患者さんと一緒に考えたいと思っています。
参考文献
- 8020推進財団. 第2回 永久歯の抜歯原因調査 報告書. 2018年11月. リンク
- Department of Health and Social Care, et al. Delivering better oral health: an evidence-based toolkit for prevention. Chapter 5: periodontal diseases. 4th ed. 2021(2025年9月更新). リンク
- Chapple ILC, Mealey BL, Van Dyke TE, et al. Periodontal health and gingival diseases and conditions on an intact and a reduced periodontium: Consensus report of workgroup 1 of the 2017 World Workshop on the Classification of Periodontal and Peri-Implant Diseases and Conditions. J Periodontol. 2018;89 Suppl 1:S74-S84. DOI
- Sanz M, Herrera D, Kebschull M, et al. Treatment of stage I-III periodontitis—The EFP S3 level clinical practice guideline. J Clin Periodontol. 2020;47 Suppl 22:4-60. DOI
- Lee CT, Huang HY, Sun TC, Karimbux N. Impact of Patient Compliance on Tooth Loss during Supportive Periodontal Therapy: A Systematic Review and Meta-analysis. J Dent Res. 2015;94(6):777-786. DOI
- Chen X, Xu C, Wu Y, Zhao L. The survival of periodontally treated molars in long-term maintenance: A systematic review and meta-analysis. J Clin Periodontol. 2024;51(5):631-651. DOI
- Eltahlah D, Lynch CD, Chadwick BL, Blum IR, Wilson NHF. An update on the reasons for placement and replacement of direct restorations. J Dent. 2018;72:1-7. DOI
- 日本補綴歯科学会 医療委員会 診療ガイドライン作成部会. 歯の欠損の補綴歯科診療ガイドライン2008. 日本補綴歯科学会誌. 2009;1(2). リンク
- Martins MD, Junqueira RB, de Carvalho RF, et al. Is a fiber post better than a metal post for the restoration of endodontically treated teeth? A systematic review and meta-analysis. J Dent. 2021;112:103750. DOI
- 厚生労働省.「令和6年歯科疾患実態調査」の結果(概要)を公表します. 2025年6月26日. リンク
- Herrera D, Sanz M, Kebschull M, et al. Treatment of stage IV periodontitis: The EFP S3 level clinical practice guideline. J Clin Periodontol. 2022;49 Suppl 24:4-71. DOI



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