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「歯ぎしりはしていない」と思っている人へ。歯科医師が書く、食いしばりのサインとマウスピース・ボトックスの本当の役割

「歯ぎしりはしていない」と思っている人へ。歯科医師が書く、食いしばりのサインとマウスピース・ボトックスの本当の役割 歯のトラブル

この記事の結論

「歯ぎしり? 私はしていないと思います」——歯ぎしりや食いしばりについて尋ねると、ほとんどの方がこう答えます。先に答えを書きます。

  • 歯ぎしり・食いしばりは、自分では気づけないことがほとんどです。音の出ない食いしばりもあり、自己申告は当てになりません[1]
  • 歯ぎしりそのものは珍しい行動ではありません。問題は、歯やあごが耐えられる範囲を超えたときです[9]。そして、それは歯が割れるなどの症状が出るまで気づきにくい
  • マウスピースは、歯ぎしりを治す道具ではありません。歯とあごの関節を守る道具です[1][12]。保険で作れます[15]
  • ボトックス(ボツリヌス注射)は、噛む力そのものを弱める治療です[13]。歯ぎしりをやめさせる治療ではなく、日本では保険が使えません[16]
  • 日中の食いしばりは癖なので、気づく仕組みを作れば減らせる可能性があります[1][20]。気になったら、すぐに歯科で診てもらってください

この記事では、自分では気づけない歯ぎしり・食いしばりのサインと、マウスピースとボトックスの本当の役割、日中の食いしばりに気づく仕組みを、研究の数字と診療の実感から書きます。文中の[番号]は記事末尾の参考文献です。

自分では気づけない。でも、口の中にはサインが出る

歯ぎしりには2種類ある

歯ぎしりには、寝ている間のものと、起きている間のものがあります。寝ている間は、ギリギリこすり合わせる「歯ぎしり」だけでなく、音を立てずにぐっと噛みしめる「食いしばり」もあります。起きている間は、仕事中やスマホを見ているときに、上下の歯を軽く接触させ続ける癖も含まれます[1]。

本来、上下の歯が触れている時間は、食事や会話を含めても1日20分程度とされています[1]。唇を閉じていても、上下の歯の間にはすき間があるのが自然な状態です。どんな状態が自然なのかは、後の「仕組み」の節で図にしました。

「していない」が当てにならない理由

寝ている間のことは、自分では分かりません。一人で寝ている方は、音を指摘してくれる人もいません。音の出ない食いしばりは、家族でも気づけません。日本歯科医師会の解説でも、自己申告に頼った診断には限界がある、とされています[1]。

起きている間の食いしばりも、本人は無意識です。スマートフォンのアプリで1日に何度も「今、歯を接触させていますか」と尋ねる研究では、若い成人でも記録した時点の28〜40%で、食いしばりなどの行動があったと報告されています[2]。

歯科医師が口の中で見ているサイン

私が診療で口の中を見ると、自覚のない方でも、次のようなサインが出ていることがほとんどです。

  • 咬筋(頬の横の、噛むときに盛り上がる筋肉)の張りや、押したときの痛み。咬筋が発達していることは、歯ぎしりを疑う目安の一つとされています[1]
  • 歯のすり減り。本来は丸みのある歯の先が、平らになっていることがあります[1]
  • 骨隆起。下あごの内側や上あごの真ん中に、骨のこぶのような盛り上がりが見られることがあります
  • 舌や頬の内側の、歯の跡。舌の縁が歯の形にデコボコしていたり、頬の内側に歯の並びに沿った跡がついていたりします
  • 歯の根元の欠け。むし歯ではないのに、歯と歯ぐきの境目がえぐれたように欠けていることがあります

このうち、研究の評価が分かれるものもあるので、正直に書いておきます。

  • 骨隆起: 歯ぎしりのサインと骨隆起の関係を調べた研究のまとめでは、歯のすり減りと骨隆起(特に下あごの内側)の関連が示唆される一方、確からしさは「低い〜非常に低い」とされています[3]
  • 舌や頬の歯の跡: 高校生66人の研究では、日中の食いしばりなどの行動が多い人ほど、頬の内側の歯の跡が多く見られました[4]
  • 歯の根元の欠け: 以前は、その形から「くさび状欠損」と呼ばれていました。実際にはくさび形のほかに、浅いお皿のような形もあり[5]、今は「非う蝕性歯頸部欠損(むし歯ではない、歯の首の部分の欠け)」と呼ぶのが一般的です。寝ている間の歯ぎしりがある人で多く見られたという研究があり[6]、研究のまとめでも、多くの研究が噛む力との関連を示していました[7]。一方で、力だけが原因と示した臨床研究はなく、かみ合わせとの関連を否定するまとめもあります[8]。歯磨きの力や酸など、いくつもの原因が重なってできるものと考えてください

どれも、それ一つで歯ぎしりをしていると決めつけることはできません。私は、いくつかのサインを合わせて判断する目安として見ています。

自分でも気づけるサインとしては、次のようなものがあります[1]。

  • 朝起きたときに、あごが疲れている、だるい、痛い
  • 家族に歯ぎしりの音を指摘されたことがある
  • 舌の縁や頬の内側に、歯の跡がついている

なぜ放っておけないのか

歯ぎしりは「行動」。問題になるのは限度を超えたとき

まず誤解のないように書いておくと、歯ぎしりをしていること自体は病気ではありません。国際的な専門家の合意でも、健康な人の歯ぎしりは「病気」ではなく「行動」であり、歯やあごのトラブルの危険因子になりうるもの、と整理されています[9]。

問題は、その力が歯やあごの耐えられる範囲を超えたときです[1]。寝ている間の歯ぎしりでは、起きているときに思い切り噛みしめる以上の筋肉の活動が記録されることもあります[1]。

症状が出たときには、もう壊れていることが多い

これは研究ではなく私の実感ですが、歯ぎしりで困って来院される方は、症状が出たときにはかなり進んでいることが多いと感じます。歯が割れた、詰め物が壊れた、という方は、診療では本当によく見ます。

研究でも、歯ぎしりに関連する強い力がかかっている人では、奥歯の詰め物がだめになる主な理由が「割れること」だった、という報告があります[10]。

どれも「一緒に見られることが多い」ことを示した研究で、歯ぎしりだけが原因と証明されたわけではありません。ただ、気づいた時点で歯やあごを守る手を打っておく価値はある、と私は考えています。

歯が割れると、抜歯になることもあります。歯を失う原因と、抜歯に至るまでの経過は、別の記事に書きました。

→ 歯を失う原因の1位は歯周病。「なんとか残せませんか?」に歯科医師が本音で答える、抜歯に至る3つの経過

よくある誤解

1. 「マウスピースをすれば治る」

マウスピースで歯ぎしりが治ると思っている方は、患者さんにも、実は歯科医師にも多いと感じます。

日本歯科医師会の解説では、マウスピースは短期的には歯ぎしりを抑えることがあるものの、効かない人もいて、長く使っていると歯ぎしりのレベルは元に戻ると書かれています[1]。国際的な医学研究のまとめでも、マウスピースが歯ぎしりの治療として有効と言える十分な証拠はない、とされています[12]。

では意味がないのかというと、そうではありません。マウスピースには、歯や詰め物を歯ぎしりの力から守り、あごの関節への負担を減らせる可能性があるという利点があります[1]。私は、マウスピースを「歯ぎしりを治す道具」ではなく「歯とあごの関節を守る道具」として勧めています。

2. 「かみ合わせを削って調整すれば治る」

かつては、かみ合わせの悪さが歯ぎしりの原因だと考えられていた時期がありました。しかし現在は、かみ合わせが原因だという科学的根拠はなく、この考え方は否定されています[1]。寝ている間の歯ぎしりは、主に脳の働きに由来するものとされています[1]。歯ぎしりを止める目的で健康な歯を削るのは、勧められません。

3. 「ボトックスを打てば歯ぎしりが止まる」

ボトックス(ボツリヌス注射)については、次の節で詳しく書きます。先に結論だけ書くと、噛む力は弱まりますが、歯ぎしりそのものが減るという証拠は弱いです[13][14]。

マウスピースとボトックス。歯科医師の使い分け

私は、2つをこう使い分けています。

マウスピースボトックス
目的歯とあごの関節を守る噛む力そのものを弱める
仕組み歯ぎしりの力を装置で受け止める咬筋に注射して、筋肉の力を一時的に弱める
効果の続き方着けている間数か月で切れる[13]
保険使える[15]使えない(自由診療)[16]

マウスピース

歯ぎしりに対するマウスピースは、保険で作れます[15]。装置そのものの負担は作り方によって変わり、3割負担でおよそ2,000〜4,500円です。別に型取りや診察の費用がかかります。

ボトックス

私自身もボトックスを使っていますが、研究を見ると、臨床での実感とよく合っていました。

  • 噛む力: 注射すると、1か月以内から3か月までは、偽の注射やマウスピースより噛む力が弱まりました。効果は5〜8週でピークになり、長くて24週ほどで切れていきます[13]
  • 痛み: あごの痛みなどの改善は、マウスピースと同じくらいでした。ボトックスの方が早く楽になる、という報告もあります[17]
  • 歯ぎしりの回数: 筋肉の電気的な活動は減りますが、質問票や睡眠検査で見た歯ぎしりの回数は、6つの研究のうち5つで偽の注射と差がありませんでした[14]

つまり、ボトックスは力を弱める治療であって、歯ぎしりをやめさせる治療ではありません。効果は数か月で切れるので、続けるなら繰り返し注射が必要になります。

また、日本で承認されているボトックスの効能は、まぶたのけいれんや手足のつっぱりなどで、歯ぎしりは含まれていません[16]。歯ぎしりに使う場合は、保険の使えない自由診療になります。

「根本的な解決」とは何か

マウスピースもボトックスも、歯ぎしりの力への対処です。私は、それとは別に根本的な解決が大切だと考えています。

日本歯科医師会の解説でも、歯ぎしりを確実に抑えられる単一の治療法は、現時点ではないとされています[1]。そのうえで、次のような要因が関わっている場合は、そこに手を打つことで抑えられる可能性があり、まず行うべきこととされています[1]。

  • ストレス
  • 飲酒・喫煙
  • 一部の薬(抗うつ薬の一部など。自己判断でやめず、処方した医師に相談してください)
  • 睡眠の問題(睡眠中の呼吸の問題など)

起きている間の食いしばりは、いつの間にか身についた「癖」と考えられていて、自分で気づいて直すことが理論的には可能です[1]。ここが、次の「仕組み」の出番です。

今日からできる、サボっても効く仕組み

1. 「力の抜けた口の形」を知っておく

食いしばりに気づくには、まず「力が抜けているときの口の形」を知っておく必要があります。口を閉じて力が抜けているとき、口の中は次のような状態です。

  • 唇は軽く閉じている
  • 上下の歯は触れず、前歯のあたりで2〜3mmのすき間がある[1]
  • 舌の先は、上の前歯の裏の少し後ろにある歯ぐきのふくらみに、軽く触れている。歯科ではこの場所を「スポット」と呼びます
舌の先は「スポット」に軽く触れる 上の前歯の裏の、少し後ろの歯ぐきのふくらみ 上下の歯は触れない 前歯のあたりで2〜3mmのすき間 唇は軽く閉じる 横から見た口の中の模式図(大きさは実際と異なります)

舌の位置については、研究の話も正直に書いておきます。健康な若い人を対象にした2つの小さな研究では、舌を上あごにつけたときの方が、舌を下に置いたときより、こめかみの筋肉の活動がわずかに高くなっていました[18][19]。噛む筋肉である咬筋の活動には差がなかった、という結果もあります[18]。スポットは、舌を強く押し当てる場所ではなく、軽く触れる目安と考えてください。食いしばり対策としていちばん大事なのは、上下の歯を離して、あごの力を抜くことです。

2. 「歯を離す」を思い出す合図を、目に入る場所に置く

起きている間の食いしばりは無意識なので、「気をつけよう」と思うだけでは続きません。気づくきっかけを、生活の中に置いておきます。

  • パソコンのモニターの端や、スマホの待ち受けに「歯を離す」と書いておく
  • スマホのリマインダーを1日数回鳴らし、鳴ったら上下の歯が触れていないか確認する

スマホのアプリで1日に何度か自分の状態を記録した学生の試験では、記録しなかった学生に比べて、食いしばりへの自覚が変わった人が有意に多かったと報告されています[20]。小さな試験なので「減らせる」とまでは言えませんが、気づく回数を増やすことが第一歩です。

触れていたら、唇は閉じたまま、上下の歯を離して、あごの力を抜きます。上の図の形に戻すイメージです。

3. 夜の歯ぎしりは、止めようとせず「守る」

寝ている間の歯ぎしりは、意識で止められません。ここは割り切って、マウスピースで歯を守る側に回ります。マウスピースは、歯ブラシの隣など、寝る前に必ず目に入る場所に置いておくと、着け忘れが減ります。

寝る前の飲酒を控える、たばこをやめる、といった要因への手当ても、ここに入ります[1]。

4. 定期検診で「歯ぎしりのサイン」を見てもらう

自分では気づけない以上、定期検診が最も確実な発見の場です。検診のときに「歯ぎしりや食いしばりのサインはありますか」と一言聞いてください。歯のすり減りや咬筋の張りは、歯科医師が見ればすぐに分かります。定期検診を続ける工夫は、歯磨きが続かないのは、意志の問題じゃない。歯科医師が考える「サボっても守れる」仕組みでも書きました。

個人を責めるな、仕組みを責めよう。

受診の目安

気になったら、すぐに

歯ぎしり・食いしばりについては、気になったらすぐに受診してください。症状が出てからでは、歯が割れているなど、手遅れになっていることが多いからです。

次のような場合は、特に早めに受診してください。

  • 歯が欠けた、詰め物や被せ物が割れた・取れた
  • 噛むと痛い歯がある、冷たいものがしみる歯がある[6][11]
  • 朝起きると、あごや頬が痛い、口が開きにくい、あごで音がする[1]
  • 家族に歯ぎしりの音を指摘された

また、大きないびきや日中の強い眠気がある場合は、睡眠中の呼吸の問題が関わっていることもあります[1]。歯科とは別に、医科の受診も考えてください。

よくある質問

Q. 歯ぎしりの音がしなければ、大丈夫ですか?

A. 大丈夫とは言えません。音を立てずにぐっと噛みしめる食いしばりもあり、こちらは家族でも気づけません[1]。歯のすり減りや咬筋の張りは歯科で分かるので、検診で聞いてみてください。

Q. マウスピースを着ければ、歯ぎしりは治りますか?

A. 治るわけではありません。長く使っていると歯ぎしりのレベルは元に戻るとされています[1]。マウスピースは、歯とあごの関節を守るためのものです。

Q. ボトックスは保険が使えますか?

A. 使えません。日本で承認されているボトックスの効能に、歯ぎしりは含まれていません[16]。効果も数か月で切れるので[13]、続けるなら繰り返しの注射と費用がかかります。

Q. 子どもの歯ぎしりは心配ですか?

A. 子どもの歯ぎしりは大人より多く、成長とともに減っていくのが一般的です[1]。かみ合わせが育つ途中なので、多くは心配いりません。歯が欠けた、痛がる、などがあれば歯科で相談してください。

Q. 歯ぎしりは治りますか?

A. 確実に止められる単一の治療法は、今のところありません[1]。ストレスや飲酒などの要因への手当て、日中の食いしばりに気づく工夫、マウスピースで歯を守ることを組み合わせて、付き合っていくのが現実的です。

この記事を書いた人

現役の歯科医師です。歯科医師として5年以上、地域の歯科医院で日々患者さんを診ています。歯ぎしり・食いしばりは、ほとんどの方が自覚のないまま、歯が割れたり詰め物が壊れたりして初めて気づきます。このサイトでは、頑張らなくても回る仕組みを、歯科の内側から書いていきます。

参考文献

  1. 日本歯科医師会. テーマパーク8020「歯ぎしり」(執筆: 久保田英朗). リンク
  2. Colonna A, Bracci A, Ahlberg J, et al. Ecological Momentary Assessment of Awake Bruxism Behaviors: A Scoping Review of Findings from Smartphone-Based Studies in Healthy Young Adults. J Clin Med. 2023;12(5):1904. DOI
  3. Bertazzo-Silveira E, Stuginski-Barbosa J, Porporatti AL, et al. Association between signs and symptoms of bruxism and presence of tori: a systematic review. Clin Oral Investig. 2017;21(9):2789-2799. DOI
  4. Schappo C, Garanhani RR, Cordeiro MEW, et al. Assessment of awake bruxism and oral mucosa indentation in adolescents. J Oral Rehabil. 2023;50(8):671-678. DOI
  5. Villamayor KGG, Codas-Duarte D, Ramirez I, et al. Morphological characteristics of non-carious cervical lesions. A systematic review. Arch Oral Biol. 2024;167:106050. DOI
  6. Ommerborn MA, Schneider C, Giraki M, et al. In vivo evaluation of noncarious cervical lesions in sleep bruxism subjects. J Prosthet Dent. 2007;98(2):150-158. DOI
  7. Duangthip D, Man A, Poon PH, Lo ECM, Chu CH. Occlusal stress is involved in the formation of non-carious cervical lesions. A systematic review of abfraction. Am J Dent. 2017;30(4):212-220. PubMed
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  13. Chen Y, Tsai CH, Bae TH, et al. Effectiveness of Botulinum Toxin Injection on Bruxism: A Systematic Review and Meta-analysis of Randomized Controlled Trials. Aesthetic Plast Surg. 2023;47(2):775-790. DOI
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  18. Carlson CR, Sherman JJ, Studts JL, Bertrand PM. The effects of tongue position on mandibular muscle activity. J Orofac Pain. 1997;11(4):291-297. PubMed
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