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痛くない親知らずも抜くべき? 口腔外科の歯科医師が書く、年齢や病気で「抜けなくなる」前に知っておきたいこと

痛くない親知らずも抜くべき? 口腔外科の歯科医師が書く、年齢や病気で「抜けなくなる」前に知っておきたいこと 歯のトラブル

この記事の結論

「この親知らず、抜かないとだめですか?」——口腔外科で診療していると、毎日のように聞かれる質問です。先に答えを書きます。

  • 症状がなく、骨の中に完全に埋まっている親知らずは、抜かずに様子を見る選択もあります。抜くか残すかを決められるだけの確かな研究は、まだありません[1]
  • 半分だけ出ている親知らずは、手前の歯のむし歯や、歯ぐきの腫れの原因になりやすいです[2]
  • 抜くなら若いうちが有利です。25歳を過ぎると、抜いた後のトラブルや、神経のまひが残るリスクが増えます[3][4][5]
  • 将来、病気や薬で、抜くのが難しくなることがあります。頭や首への放射線治療を受けると抜けなくなることも多く[6]、骨粗しょう症などの骨の薬を使うと、顎の骨が壊死するリスクが加わります[7][8][9]。だから、今は症状がなくても、元気なうちに抜いておくのは悪くない選択だと私は考えています
  • 抜いた後の痛みや腫れは、1〜2日目がピークです。普段の生活に戻れなかった日数は、平均で1〜2日でした[10][11]
  • ほとんどの親知らずは、入院せずに通院で抜けます
  • 痛みがあるなら受診してください。痛くない親知らずは、定期検診でレントゲンを撮ったときに相談するのがおすすめです

この記事では、抜いた方がいい親知らずと様子を見てよい親知らず、「抜くなら若いうち」と言われる理由、病気や薬で抜くのが難しくなるケース、患者さんによく聞かれることを、研究と診療の実感から書きます。文中の[番号]は記事末尾の参考文献です。

抜いた方がいい親知らず、様子を見てよい親知らず

親知らず、抜く?様子を見る?

最終的な判断は、レントゲンを見ながら歯科医師と相談して決めます

痛みや腫れを繰り返している

抜くことを考える

半分だけ出ていて、手前の歯との間に汚れがたまる[2]

抜くことを考える

手前の歯にむし歯や歯ぐきの病気が出ている

抜くことを考える

まっすぐ生えて上下でかみ合い、きちんと磨けている

抜かなくてよいことが多い

骨の中に完全に埋まっていて、症状がない[1]

定期的にレントゲンで確認。将来の病気や薬を考えて、早めに抜く選択もある

様子を見る選択もある

症状のない親知らずを抜くべきかは、研究でも決着していない

痛みも腫れもなく、骨の中に埋まっている親知らずを、予防のために抜くべきか。国際的な医学研究のまとめ(コクランレビュー)は、抜くか残すかを判断できるだけの証拠は不十分と結論づけています[1]。

そのうえで、このレビューは、本人の考えと歯科医師の判断で一緒に決めること、残すなら定期的に診察を受けることを勧めています[1]。

私の考えも近いです。完全に埋まっていて症状がないなら、抜かなくてもいいと思います。ただ、年を重ねてから体の状態が変わる方もいます。だから、早めに抜いておくのも悪くない選択です。その理由を、次の2つの節で書きます。

「抜くなら若いうち」の理由

これは間違いありません。年齢が上がるほど、抜くのが大変になります。

  • 約4,000人を調べたアメリカの研究では、抜いた後のトラブル(合併症)は全体で19%に起きていて、25歳を超えると約1.5倍に増えていました[3]
  • 別の研究でも、年齢が上がること、持病があること、親知らずの根が神経に近いことが、合併症を増やす要因でした[4]
  • 抜いた後の穴に強い痛みが出るドライソケットも、年齢や抜歯の難しさが主な要因とされています[12]

神経のまひ(しびれ)も、年齢とともに増える

下の親知らずの近くには、下くちびるやあごの感覚を伝える神経(下歯槽神経)と、舌の感覚を伝える神経(舌神経)が通っています。抜歯でこれらの神経が傷つくと、しびれなどのまひが出ることがあります。

このまひも、年齢が上がるほど出やすく、治りにくくなります。

  • 複数の前向き研究をまとめた報告では、年齢が上がることが、下歯槽神経と舌神経の両方のまひの危険因子とされています[13]
  • 1万本を超える下の親知らずを調べたオーストラリアの研究では、25歳以上で、下歯槽神経のまひが永続的に残るリスクが高くなっていました[5]
  • 韓国の1万2千人あまりを対象にした研究でも、年齢が高いことは、骨の中に深く埋まっていることと並んで、下歯槽神経のまひの有意な危険因子でした[14]
  • まひが出た後の経過を追った研究では、年齢が高い人ほど、感覚が完全には戻りにくいという結果でした[15]

なお、まひが起きる頻度そのものは高くありません。4,338本を調べた研究では、下くちびる・あごのまひは0.35%、舌のまひは0.69%で、最終的に、それぞれ67%と72%が完全に回復しています[16]。25歳以上だけを調べた研究では、下くちびる・あごのまひは1.1〜1.7%でした[17]。

将来、病気や薬で抜くのが難しくなることがある

今は元気でも、年を重ねてから病気や薬が加わると、親知らずを抜くこと自体が難しくなる場合があります。

頭や首のがんで放射線治療を受けた場合

のどのがん(中咽頭がん)など、頭や首のがんで放射線治療を受けると、放射線が当たった顎の骨は治る力が落ちます。放射線治療の後に歯を抜いた人を調べた研究のまとめでは、約7%で顎の骨が壊死(放射線性骨壊死)していました。とくに、放射線が多く当たった下顎の歯を抜く場合に、リスクが高くなっていました[6]。

そのため、放射線治療の後に歯を抜くかどうかは、とても慎重な判断になります。

骨粗しょう症などの骨の薬を使う場合

骨粗しょう症の治療には、骨を壊す働きを抑える薬(骨吸収抑制薬)がよく使われます。飲み薬や点滴のビスホスホネート(アレンドロン酸など)と、注射薬のデノスマブ(プラリアなど)が代表的です。日本の6つの学会などでつくる顎骨壊死検討委員会のポジションペーパー2023でも、この2種類が、薬による顎の骨の壊死(薬剤関連顎骨壊死)の主な原因とされています[9]。

  • ビスホスホネート: 添付文書では、顎骨壊死の頻度は0.03%で、報告された例の多くが抜歯などの処置や、局所の感染に関連して起きているとされています[7]
  • デノスマブ: 添付文書では、顎骨壊死の頻度は0.1%とされています[8]

頻度はまれですが、日本の調査では、骨粗しょう症の量のビスホスホネートを使う人の顎骨壊死は1年に10万人あたり135.5人で、使っていない人(5.1人)より多く、欧米より高い可能性も指摘されています[9]。

どちらの添付文書も、薬を使い始める前に、抜歯などの処置をできる限り済ませておくことを求めています[7][8]。ポジションペーパー2023も、使い始める前に必要な抜歯などを終えておくことは、顎骨壊死の予防に効果的としています[9]。

一方で、使っている間に抜歯が必要になった場合について、ポジションペーパー2023は、薬を休んでも顎骨壊死が減るという結果は得られていないとして、原則として薬を休まずに抜歯することを提案しています。とくにデノスマブは、やめると背骨の骨折が増えるおそれがあるため、中止しないことが望ましいとされています[9]。

また、ポジションペーパー2023は、抜歯そのものよりも、顎の骨に細菌の感染があることを重く見ています。親知らずの周りの炎症(智歯周囲炎)から顎の骨に炎症が広がることもあり、こうした感染が顎骨壊死に関わると考えられています[9]。

がんの骨への転移などで、同じ系統の薬を多く使う場合は、さらにリスクが上がります。抜歯後に顎骨壊死が起きた割合は、研究によって11〜50%と報告されています[18]。

糖尿病がある場合

糖尿病がある人は、ビスホスホネートによる顎骨壊死が約2倍起きやすいという分析があります。ただし、研究の確からしさは非常に低いとされています[19]。ポジションペーパー2023でも、糖尿病は、自己免疫疾患、人工透析、喫煙・飲酒・肥満などと並んで、全身のリスク因子に挙げられています。口の中の衛生状態が悪いことも、リスク因子です[9]。

つまり、「痛くないから、ずっとそのままで大丈夫」とは言い切れません。若く元気なうちに抜いておけば、こうした心配はなくなります。ポジションペーパー2023も、骨の薬を始める前に、感染の原因になりうる歯を治療しておくことを重視しています[9]。症状のない親知らずを早めに抜くこと自体の効果を長い期間かけて確かめた研究はありませんが、私はこれが、症状のない親知らずでも早めに抜くことを勧める大きな理由だと考えています。

上の親知らずと下の親知らず

  • 上の親知らずは、一般的に周りの骨が柔らかく、抜くのは比較的楽です
  • 下の親知らずは、横向きに埋まっていたり、骨の中に深く埋まっていたりすると、骨を削ったり、歯を分割したりする必要があり、大変になることが多いです

ただ、本当に難しいのは、骨の中に埋まった上の親知らずであることが多い、というのが私の実感です。

患者さんによく聞かれること

「入院しないとだめですか?」

ほとんどの場合、入院は必要ありません。通院で、局所麻酔で抜けます。設備の面では、親知らずのほとんどは、一般の歯科医院で抜くことができます。

大きな病院の口腔外科に紹介するのは、

  • 技術的に難しい場合
  • 抜くのに時間がかかり、一般の歯科医院の診療時間では対応しにくい場合
  • 患者さんが全身麻酔を希望した場合

くらいです。全身麻酔で抜く場合は、入院になることがあります。

「仕事や学校は休んだ方がいいですか?」

アメリカの約4,000人の研究では、抜いた後に普段の生活ができなかった日数は、平均1.4日(半数の人は1日以内)でした。年齢が高い人、下の親知らず、骨に完全に埋まった親知らずでは長引く傾向がありました[10]。ヨーロッパの412人の研究では、仕事を休んだ日数は平均2.1日でした[11]。

ですから、抜く日は、翌日が休みになる日を選ぶと安心です。

「どのくらい腫れますか? 痛みますか?」

一般的には、痛みや腫れは1〜2日目がピークで、1週間から10日ほど続くと言われています。先ほどのヨーロッパの研究では、痛みが続いた日数も、腫れが続いた日数も、平均3.6日でした。腫れや痛みは、抜く前から症状があったか、抜くのにかかった時間などによって変わります[11]。

「抜いた後、やってはいけないことはありますか?」

私は患者さんに、「痛くなければ、普段どおりに過ごしてかまいません」と伝えています。

そのうえで、研究で根拠がはっきりしているのがたばこです。研究をまとめた分析では、たばこを吸う人はドライソケットになる確率が3倍以上高く、発生した割合は吸う人で約13%、吸わない人で約4%でした[20]。

ドライソケットは、ふつう抜いて1〜5日後に強い痛みとして始まります[20]。いったん落ち着いた痛みが強くなってきたら、我慢せずに抜いた歯科医院に連絡してください。

「神経が近いと言われて、怖いです」

下の親知らずの根が神経に近い場合は、CT(立体的に撮れるレントゲン)で位置関係を確かめることがあります。

ただし、CTを撮れば、まひが減るというわけではありません。CTとふつうのレントゲン(パノラマ)を比べた研究のまとめでは、まひの起こりやすさに差はありませんでした[21]。CTは、抜き方を決めたり、リスクを説明したりするための検査と考えてください。

それでも私は、親知らずを抜く方には、全員にCTを撮るようにしています。抜歯の途中で思わぬことが起きたときには、CTの情報が欠かせないからです。

まひが出る頻度は、先ほど書いたとおり、多くの研究で1%前後かそれ以下で、多くは回復します[16][17]。

「大きな病院を紹介されたのは、なぜですか?」

紹介されたからといって、必ずしも「危険な親知らず」というわけではありません。上に書いたとおり、技術的な難しさのほか、抜くのにかかる時間や、全身麻酔の希望なども理由になります。

よくある誤解と、やってはいけないこと

1. 痛くないから、一生このままで大丈夫と思う

半分だけ出ている親知らずの隣の歯は、むし歯になりやすいことが分かっています。埋まった下の親知らずの手前の歯を調べた研究のまとめでは、約30%の歯の、親知らず側の面にむし歯がありました[2]。痛みがなくても、手前の歯が少しずつ傷んでいることがあります。

さらに、年を重ねてから病気や薬が加わると、抜くこと自体が難しくなる場合があります[6][7][8]。

2. 親知らずは、全部抜くものだと思う

全部抜く必要はありません。まっすぐ生えてかみ合っている親知らずや、完全に埋まって症状のない親知らずは、様子を見る選択もあります[1]。

3. 腫れや痛みが引いたから、治ったと思う

親知らずの周りの炎症(智歯周囲炎)は、いったん治まっても、繰り返すことがよくあります。急に腫れて口が開かない、飲み込めないといった場合の対応は、夜中・休日に歯が痛いときの応急処置と、やってはいけないこと。歯科医師が書く、今すぐ受診すべきサインにまとめました。

4. 骨の薬を使い始めてから、親知らずのことを考える

骨粗しょう症の薬などを使い始める予定があるなら、その前に歯科で相談してください。添付文書でも、使い始める前に抜歯などの処置をできる限り済ませておくよう求めています[7][8]。ポジションペーパー2023では、骨粗しょう症の治療を始める人は、原則として全員が歯科でのチェックの対象とされています[9]。

すでに使っている方は、自己判断で薬をやめないでください。とくにデノスマブは、やめた後に骨を壊す働きが一時的に強まり、背骨の骨折が続けて起きることがあるとされています[8]。歯科を受診するときに、使っている薬を必ず伝えてください[7]。

今日からできる仕組み

  • 定期検診でレントゲンを撮ったときに、親知らずのことも聞く。抜いた方がいいか、様子を見てよいかを判断する一番手軽な機会です。「親知らずはどうですか?」の一言で足ります
  • 抜くなら、翌日が休みの日に予約する。普段の生活に戻れない日は、多くの人で1〜2日です[10][11]
  • お薬手帳を、歯科にも持っていく。骨の薬などを使っているかどうかで、抜歯の判断が変わります[7][8]
  • 大きな治療(がんの放射線治療、骨の薬)が始まる予定があれば、先に歯科へ。放射線治療の後は抜歯のリスクが高くなり[6]、骨の薬は始める前に必要な治療を済ませておくことが顎骨壊死の予防になるとされています[9]

受診の目安

早めに受診してほしい場合

  • 親知らずの周りが痛い、腫れている
  • 腫れや痛みを繰り返している
  • 骨の薬や、頭や首の放射線治療を始める予定がある

次の定期検診で相談すればよい場合

  • 痛くないけれど、親知らずがあるかどうか、抜いた方がいいかを知りたい
  • 半分だけ出ていて、磨きにくい

急に大きく腫れた、口が開かない、飲み込めない、息苦しいといった場合は、夜間や休日でも受診が必要です(夜中・休日に歯が痛いときの記事)。

よくある質問

Q. 親知らずを抜くのに、年齢の上限はありますか?

A. 上限はありません。ただ、25歳を過ぎると、抜いた後のトラブルや、神経のまひが残るリスクが増えるという研究があります[3][5]。抜くことを考えているなら、早い方が有利です。

Q. 抜いた後、どのくらいで普段の生活に戻れますか?

A. 研究では、普段の生活ができなかった日数は平均1〜2日でした[10][11]。痛みや腫れは1〜2日目がピークで、1週間から10日ほどで落ち着くのが一般的です。

Q. 入院は必要ですか?

A. ほとんどの場合、通院で局所麻酔で抜けます。難しい場合や、全身麻酔を希望する場合は、大きな病院の口腔外科に紹介し、入院になることがあります。

Q. 抜いた後、たばこは吸ってもいいですか?

A. 控えてください。たばこを吸う人は、抜いた後の穴が強く痛むドライソケットになる確率が3倍以上高いという分析があります[20]。それ以外は、痛くなければ普段どおりに過ごしてかまいません。

Q. 下の親知らずが神経に近いと言われました。CTを撮った方がいいですか?

A. 位置関係を確かめるためにCTを撮ることがあります。ただし、CTを撮ればまひが減るという証拠はありません[21]。まひが出る頻度は多くの研究で1%前後かそれ以下で、多くは回復します[16][17]。

Q. 骨粗しょう症の薬を使っています。親知らずを抜けますか?

A. 抜けます。ポジションペーパー2023は、骨粗しょう症で使う量の薬では、原則として薬を休まずに、抜歯を含めて必要な治療を続けることを提案しています[9]。ただし、顎の骨が壊死するリスクはゼロではありません[7][8]。自己判断で薬をやめず、薬を出している医師と歯科医師の両方に相談してください。とくにデノスマブは、やめると背骨の骨折が起きやすくなることがあります[8]。

この記事を書いた人

現役の歯科医師です。歯科医師として5年以上、口腔外科を中心に診療しています。「抜かないとだめですか?」と聞かれたとき、抜くか残すかは、親知らずの状態だけでなく、その人のこれからの人生も考えて一緒に決めています。その考え方を、研究で分かっていることと合わせて書きました。

参考文献

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  9. 顎骨壊死検討委員会(岸本裕充、萩野浩、北川善政、他). 薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023. 2023. リンク(日本口腔外科学会)
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